子規と柿と東大寺 5/5

明さんは何度か司馬さんに会ったことがある。
機械メーカーの会社員をやめ、造園業に転職することを話したこともあったそうだ。
「 司馬さんは、『 植物を相手にするのはこれから有望やし、すばらしい仕事や。
土にまみれなさい 』といってくれましたね。 」
と、明さんは懐かしそうにいう。
「 子規にとっては結局、奈良が最後の旅になってしまいます。
でも、きれいな女性との出会いもあり、印象深い、いい旅だったと思います。
その奈良に私がいま住んでいるのは偶然ですが、縁を感じますね 」
子規にはいくつもの柿の句があり、明治31年にも詠んでいる。
「 秋募るゝ奈良の旅籠(はたご)や柿の味 」
柿はほんのり甘い ” 恋の味 ”だったのだろう。
子規は常に明るさを失わない人だった。
脊椎カリエスの激痛に耐え、俳句・短歌の革新に最後の情熱を傾ける。
奈良の旅の記憶はそんな痛みを和らげてくれただろうか。
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